第 09回 『 良性脳腫瘍1 髄膜腫 』平成17年06月25日(土)


体のどの部位でもそうですが、腫瘍には悪性のものも良性のものもあります。一般的には、一度手術で完全に摘出できれば再発しないのが良性腫瘍。完全に摘出できても再発してくる可能性が高いものが悪性腫瘍ということになります。したがって悪性腫瘍では、手術後も放射線治療や抗癌剤投与などの治療が必要になります。髄膜腫は脳腫瘍の中でも代表的な良性腫瘍のひとつです。

  1. 髄膜腫とは?
  2. 髄膜腫の好発部位
  3. 髄膜腫の症状
  4. 髄膜腫の診断
  5. 髄膜腫の治療・手術
  6. 髄膜腫の治療・ガンマーナイフ
  7. 無症候性髄膜腫


01 髄膜腫とは?


  1. 脳を被うクモ膜の表層細胞から発生する最も良性な腫瘍のひとつ。
  2. 全脳腫瘍中約20%を占め、40〜59才に好発。女性に多い(男女比1:2)
  3. 稀に悪性のことがあり、肺・肝・骨に転移する。

脳は、クモ膜という内側の膜と硬膜という外側の膜でほぼその全周を包まれています。この二つの膜を総称して髄膜と呼びますが、髄膜腫はこの髄膜の一部が腫瘍化したものです。
したがって、腫瘍が大きくなってくると、脳を外側から圧迫するようになります。脳腫瘍の中で最も多いのは、神経膠腫と呼ばれる脳そのものから発生する腫瘍ですが、髄膜腫はこれに続いて二番目に多い腫瘍です。
神経膠腫が良性のものから悪性のものまで幅広い性質をもつのに対し、髄膜腫はほとんどは良性腫瘍です。
中年の女性に多く見られますが、高齢者や子供でも発生してくることがあります。基本的に髄膜腫は良性腫瘍ですが、悪性のことがまれにあり(1〜3%)、その場合平均生存期間は5年以内とされています。


02 髄膜腫の好発部位


図-髄膜腫の好発部位

髄膜は脳のほぼ全周を被っており、どの部位からでも発生してきます。最も多い部位は左右の大脳半球を分ける大脳鎌近傍、ついで大脳半球外側部(円蓋部)で、両者を併せて全体の約50%近くに達します。その他、頭蓋底部(脳は頭蓋底と呼ばれる骨の土台の上に乗った状態になっています)、脳室内などがあります。


03 髄膜腫の症状

髄膜腫の症状は、頭痛を除いて、髄膜腫に圧迫される脳の機能低下による症状として出現します。手足の麻痺・知覚異常(シビレ感など)・歩行障害・精神症状など、腫瘍のできる部位によって違ってきます。良性腫瘍のため、腫瘍の発育が遅く、腫瘍発生から症状出現まで、数年〜数十年を要すと考えられています。

頭痛は、どこにできる髄膜腫にでも見られる一般的な症状です。脳そのものから発生し脳を破壊して成長する腫瘍とは違って、髄膜腫は外側から脳を圧迫します。したがって、その他の症状は圧迫される脳の部位によって違ってきます。
前頭葉の前方部では精神症状が、後半部では脳とは反対側の手足の麻痺が出現します。頭頂葉では反対側の知覚異常や精神症状が、後頭葉では視覚の異常が、側頭葉では言語障害などの症状が出現します。
また頭蓋底部では種々の働きをもつ脳神経があるため、様々な症状が出現します。例えば、視神経であれば視力低下が、顔面神経であれば顔面筋の麻痺が出現します。
髄膜腫は良性のため発育が遅く、部位によっても違いますが、腫瘍発生から症状が出現する大きさになるまで、数年〜数十年かかると考えられています。見つかった時には、驚くほどの大きさになっていることも珍しくありません。


04 髄膜腫の診断

頭部CT検査やMRI検査で診断できます。特にMRI検査では、脳を覆い包む膜(硬膜)側から脳内に突出する腫瘍がはっきりと描出されます。造影剤を注射して検査を行うと腫瘍全体がほぼ均一に造影されることが特徴的です。

髄膜腫の診断は、CTやMRIなどの頭の検査であれば、比較的簡単です。頭蓋骨に接する硬膜側から脳へと向かって突出する腫瘍が認められます。造影剤を注入するとほぼ均一に造影されます。
また、脳血管撮影で硬膜の血管から腫瘍内に入り込む血管の発達が著しく、特徴的な所見です。


05 髄膜腫の治療・手術

髄膜腫ができる部位によって若干の違いはありますが、手術治療が原則です。大部分が良性腫瘍のため、完全に摘出できれば再発はありません。しかし、部位によっては部分摘出しかできない場合もあり、この場合は再拡大してくる危険性があり、定期的に検査をし、必要に応じて再手術の必要があります。

髄膜腫の治療は手術による摘出が原則です。しかし、腫瘍内に重要な動脈や静脈・神経などが巻き込まれているような場合では部分摘出を余儀なくされることもあります。特に頭蓋底にできる場合は、内頚動脈や視神経・その他の脳神経が巻き込まれ、全摘出が困難になります。
このような場合、神経や血管の温存のため、やむなく部分摘出に終わることがあります。このような場合では、残存した腫瘍が再び大きくなってくる可能性があり、定期的に検査して腫瘍の大きさを確認する必要があり、場合によっては再手術する必要があります。


06 髄膜腫の治療・ガンマーナイフ

髄膜腫のできる部位によっては、手術が極めて困難で、また高齢・心臓病などの理由で手術が不能な場合もあります。このような場合特殊な放射線治療(ガンマーナイフ)で治療することがあります。髄膜腫の直径が3cm以下のものであれば、ある程度の効果はありますが、完全に消失させることはできません。

摘出が困難な部位にある髄膜腫や、高齢者・心臓疾患などの理由で全身麻酔が不可能な場合は、特殊な放射線治療(ガンマーナイフ)が行われることもあります。しかし、ガンマーナイフは治療効果がない場合もあり、また効果があっても、髄膜腫の縮小や増大傾向の停止にとどまり、髄膜腫が完全に消失することはありません。治療後も定期的に検査して効果を見極める必要があります。


07 無症候性髄膜腫

症状がなく、小さい髄膜腫の場合は、CTあるいはMRIで定期的に観察する必要があります。約30%の症例では、腫瘍は増大します。症状が出現してくる場合や腫瘍の増大速度が速い場合は、治療する必要があります。

MRI検査の普及に伴い、無症候性(症状のない)髄膜腫が発見されることが多くなりました。1センチにも満たない小さな段階で見つかることもあり、このような場合は経過観察となります。しかしこのような髄膜腫でもそのうちの約30%が増大してくると言われています。一般的に、髄膜腫が大きくなればなるほど手術は難しくないりますので、このような場合は手術治療あるいはガンマーナイフによる治療が必要となってきます。













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