第08回 『 脳動脈瘤 』平成16年12月11日(土)


日本では、MRI(MRA)検査が普及するにしたがって、無症状・未破裂の脳動脈瘤が見つかることが多くなってきています。破裂する以前に安全に治療できるのがベストですが、いろいろと問題があることも事実です。また、正確な知識を持たないがために、いろいろと悩まれている方もいます。今回は、主に未破裂脳動脈瘤についてお話します。
  1. 脳動脈瘤とは?
  2. 脳動脈瘤(図解)
  3. 脳動脈瘤破裂の危険率
  4. 脳動脈瘤の治療(1)
  5. 脳動脈瘤の治療(2)
  6. 未破裂脳動脈瘤治療の問題点
  7. 解離性脳動脈瘤


01 脳動脈瘤とは?

脳動脈壁の脆弱な部分が、加齢・高血圧・その他の原因により膨隆した状態。破裂するとクモ膜下出血を生じ、死亡率が高い(約50%)。
脳動脈瘤は、一部の例外を除いて、血管が枝分かれする部分(分岐部)に発生する。

脳動脈瘤は、生まれつき(遺伝性)あるいは動脈硬化に伴ってできた動脈壁の弱い部分が加齢・高血圧・その他の原因により膨隆した状態です。
膨隆した動脈壁は弱く、破裂しやすい状態になっています。破裂すると脳を包むクモ膜下のスペース(クモ膜下腔)に出血し、クモ膜下出血となります。
クモ膜下出血時の症状は、突然始まる頭痛で、『ハンマーでいきなり殴られたような痛み』などと表現されます。脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血は死亡率が高く(約50%)、外傷やその他の原因によるものとは病態が異なります。
脳動脈瘤のほとんど(約90%以上)は、ウィリス動脈輪といわれる大脳の底部にあたる部分と、脳幹の前面に沿ってウィリス動脈輪に至る椎骨・脳底動脈系の、比較的太い動脈が枝分かれする部分にあります。この部はMRI(MRA)検査で充分に把握できるところで、2ミリ以上の大きさであれば多くが発見できます。
欧米のデータでは(解剖した人のデータ)、脳動脈瘤は人口の7%前後に見られるというのがありますが、これは1ミリ以下から数センチのものまで含んでおりデータとしてはあまり参考になりません。日本の脳ドックやその他のデータでは、検査した人の1%前後というのがほとんどです。


02 脳動脈瘤(図解)



脳動脈瘤

簡単に脳動脈瘤を図示してみました。
1本の血管(親血管)が枝分かれする部分に多く発生するのは前述したとおりです。枝分かれするところは、親血管内を流れてきた血流の衝撃が血管壁に直接あたり、ここの血管壁が脆くなっていると膨らみやすいためです。


03 脳動脈瘤破裂の危険率

脳動脈瘤破裂の年間発生率は、おおよそ1%前後。大きくなるにつれて破裂する可能性は高くなると考えられており、10mmくらいのものでは2%ぐらいとされている。
多発性のもの・家族性のもの・喫煙者・高血圧患者で破裂率が高い。
また、除々に大きくなるものでは破裂の可能性が高くなる。

脳動脈瘤の年間破裂率はおおよそ1%前後と考えられています。大きさが増すにつれて破裂率は高くなり、10ミリくらいのものでは2%程度とされています。沖縄県の人口は約130万人、動脈瘤をもつ人が1%とすると1万3千人、1年間では130人がクモ膜下出血を生じていることになります。はっきりとしたデータはありませんが、これはほぼ実数に一致していると考えられます。
動脈瘤のうち破裂した脳動脈瘤に伴うもの(多発性)・家族性のもの・喫煙者・高血圧患者では、破裂の危険が高いとされています。家族性のものの頻度はさほど高いものではありませんが、親・兄弟姉妹に脳動脈瘤破裂を起こした人がいれば、念のためMRI検査を受けておくべきだと考えられます。
脳動脈瘤は急にできあがるものではありません。当初は顕微鏡でしか確認できないほどのサイズであったものが、徐々に大きくなるものと考えられます。脳動脈瘤の血管壁の強さには個人差がありますが、一定の大きさになって内部の圧力に耐えられなくなった時点で破裂します。この大きさは一部の例外を除いて、最小で3〜4ミリ程度と考えられています。3〜4ミリになったら確実に破裂するというわけではなく、このサイズになると破裂する危険性が出てくるということです。
MRI検査で脳動脈瘤が見つかり、いろいろな理由で治療をせずに経過を見る場合でも、サイズが大きくなるということは破裂する危険性が高いと考えられます。これは風船が膨らむのと同じ理由で、脳動脈瘤が大きくなるにつれて血管壁が引き伸ばされて薄くなり、破裂しやすくなると考えられるからです。
また、動脈瘤が破裂するとその壁に穴があいた状態になっていますが、ここは一時的に血液の固まりで塞がれます。しかし、この状態では再度出血する可能性が高く、クモ膜下出血後早期に破裂の予防治療が行われるのはそのためです。


04 脳動脈瘤の治療(1)

開頭手術
顕微鏡下で直接脳動脈瘤を観察し、動脈瘤頚部にクリップをかける手術を行う。
最も確実な方法であるが、高齢者や心臓などの重要臓器に障害がある人では、合併症を起こす危険性が高くなる。

開頭手術
全身麻酔下で、頭蓋骨を開き(開頭手術)、脳動脈瘤の頚部(血液が親動脈から動脈瘤に入る入り口)に外側から金属製のクリップをかける方法。手術用顕微鏡を使いながら行われます。これにより動脈瘤内への血液流入はなくなり、動脈瘤はしぼみ、破裂しなくなります。脳動脈瘤破裂を予防する治療法としては、最も確実な方法です。
しかし、全身麻酔で行うため、高齢者や心臓疾患をもつ人では術後合併症の危険性が高くなる場合があります。


05 脳動脈瘤の治療(2)

血管内手術
血管内から動脈瘤内にコイルを詰める治療法。高齢者や全身状態の悪い人でも、比較的安全に治療ができる。しかし動脈瘤の完全閉塞が80〜95%と低く、また一度閉塞した部分が再度動脈瘤になる場合もあり、定期的に血管撮影を要することが難点。

血管内手術
脳血管撮影の手法を用いて、通常は大腿部の動脈から脳動脈瘤内まで細いカテーテルを通し、レントゲン透視下で確認しながら動脈瘤内に金属製のコイルを詰める方法です。局所麻酔下でも可能なため、また開頭手術と比較して他臓器への悪影響も少なく、高齢者や全身状態の悪い方でも治療が可能です。
最近では日本でも脳動脈瘤の約30%の人がこの治療を受けています。しかし、動脈瘤を完全に閉塞できるのが80〜95%と低く、また一度閉塞した部分が再度動脈瘤になることもあり、治療後も定期的な血管撮影が必要になるなどの問題があります。


06 未破裂脳動脈瘤治療の問題点

開頭手術、血管内手術いずれもある程度の合併症を起こす可能性がある。
一般的には双方とも死亡率1%前後、何らかの合併症5%前後と報告されている。
しかし破裂(クモ膜下出血)による死亡率は50%、後遺症は20〜30%に達するのも事実であり、日本全国で年間約1万5千人がクモ膜下出血を生じている。

開頭手術・血管内手術のいずれも、治療に伴い合併症を引き起こす危険性があります。一般的には双方とも死亡率1%前後、手足の麻痺や言語障害などの合併症が5%前後とされています。これはあくまでも脳動脈瘤全体の平均であり、椎骨・脳底動脈系の動脈瘤、動脈瘤の大きさが25ミリ以上のいわゆる巨大動脈瘤で危険性は高くなります。
しかし、動脈瘤が破裂しクモ膜下出血を起こすと、死亡率は50%前後、後遺症を残す人は20〜30%に達します。後遺症というのは、いわゆる植物状態から自立生活が可能な軽度の障害を含みます。日本では年間約1万5千人がクモ膜下出血を生じており、破裂予防の治療ができれば、それにこしたことはありません。
未破裂脳動脈瘤が見つかった場合。治療を受けるかどうかは、患者さん本人が決めることです。主治医と良く相談し、自分自身で納得のいく選択をするのがベストです。治療せずに経過をみる場合でも、定期的に(半年〜1年毎)MRI(MRA)検査を受け、動脈瘤が拡大していないか確認すべきです。


07 解離性脳動脈瘤

血管壁そのものに解離が生じて、その空間に血液が流入・貯留するようになり、クモ膜下出血や脳梗塞の原因になる。
解離性脳動脈瘤

脳動脈瘤の特殊なものとして、解離性脳動脈瘤があります。最近までは、稀なものと考えられていましたが、MRIやその他の診断技術の向上に伴い発見されることが多くなりました。
これは、血管壁内側に何らかの原因で亀裂が部分的に生じ、血管壁内に血液が流入するようになった状態です。この動脈瘤より外側の血管壁が弱ければ、クモ膜下出血を生じます。
また、動脈瘤が膨らんで血管腔内へ突出して血管を閉塞すると脳梗塞を生じます。クモ膜下出血と脳梗塞の頻度は、解離性脳動脈瘤ができる部位によって違いもありますが、ほぼ同程度です。もちろん、無症状のこともあります。治療は、開頭手術による親動脈の結紮(糸あるいはクリップで閉塞すること)あるいは血管内手術による親動脈の閉塞です。稀と考えられていますが、自然に消失することもあります。



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