第04回 『 高血圧と運動療法 』平成16年08月14日(土)


40歳以上成人の10〜20%が高血圧といわれています。最近ではスポーツ施設が充実し、運動で血圧を低下させようとする方が多くなってきています。運動療法である程度の血圧低下が期待できます。しかし、安易に運動で血圧を下げようとすると危険な場合があります。
今日は、高血圧への理解を深めるとともに、運動が血圧に与える影響を考える。それがテーマです。
  1. 血圧
  2. 血圧の測定法
  3. 血圧の判定基準
  4. 高血圧
  5. 高血圧による臓器障害
  6. 高血圧の治療
  7. 運動時の血流分布
  8. 運動様式による循環機能の変化
  9. 運動による血圧の変化
  10. 体力年代別の各種運動強度に対する脈拍数
  11. 高血圧における運動療法

01 血圧

血圧=心拍出量×末梢血管抵抗
心拍出量増加因子
食塩過剰摂取による体液量増加や交換神経興奮による心収縮力の増加など

末梢血管抵抗増加因子
糖尿病や高血圧に伴う動脈硬化など

心臓は胸の中央やや左寄りにあり、ほぼ大人の手拳大の大きさです。1回の心臓の拍動で60〜80mlの血液を心臓内から大動脈へ駆出します。したがって1分間では4500〜5500mlの血液を送り出していることになります。人の血液量はほぼ体重の7%とされていますから、60㎏の人では4200mlで、1分足らずで全血液が全身を駆け巡っている計算になります。
血圧は1回の心拍出量が多くなるほど、また抹消血管抵抗が上がるほど高くなります。運動に伴い心拍出量は増加しますので血圧は上昇します。また、血管抵抗が高くなる最大の要因は加齢による動脈硬化です。ですから、個人差はありますが、年齢とともに血圧は少しずつ上がってきます。


02 血圧の測定法

  1. 測定前30分は喫煙・カフェインの摂取を禁じる
  2. 最低5分間安静にしたのち測定する
  3. 肌を露出させ、心臓の高さで支え測定する
  4. 2分間隔で2回以上測定し、その平均値をとる

血圧は左右いずれかの上腕をマンシェットで巻き、加圧して徐々に圧を下げていきます。肘のところで血管音を聴取し、最初に雑音が聞こえた圧を収縮期血圧、雑音が消失した圧を拡張期血圧とします。
血圧はいろいろな要因で上下することから、測定に際してはいろいろな決まりがあります。血圧の判定基準もこの条件下で測定したものを原則としていますので、これを守って測定しなければなりません。


03 血圧の判定基準

 収縮期血圧 拡張期血圧
正常血圧130mmHg未満and85mmHg未満
正常高値血圧130〜139or85〜89
高血圧   
ステージ1140〜159or90〜99
ステージ2160〜179or100〜109
ステージ3180以上or110以上

血圧の判定基準は年々厳しくなる傾向にあります。これは、測定した血圧をいくつかのグループに分け、明らかに脳卒中や心臓疾患が増加してくる値を元に作成されています。
ステージ1〜3は、降圧剤による高血圧治療を開始すべきレベルです。特にステージ3は脳出血を起こす危険性があり、早急に治療を開始すべきレベルです。


04 高血圧

高血圧の頻度は全成人人口の20%前後といわれている

本態性高血圧
他の臓器に高血圧の原因となる異常がない高血圧。遺伝や環境因子が複雑にからんで発症してくるもので、高血圧症の大部分(90〜95%)

二次性高血圧
腎実質性高血圧や腎血管性高血圧などの腎臓疾患が原因で生じる高血圧(5%前後)、原発性アルドステロン症・褐色細胞腫・クッシング病などの内分泌疾患(ホルモン過剰分泌)(1%以下)、などがある。

本態性高血圧の方の多くは、両親のどちらかあるいは片方の親が高血圧であるという遺伝的素因をもっています。これに、塩分摂取量が多いなどの環境因子も加わって高血圧になってきます。また腎臓に問題があると、血圧を上昇させる物質が血中で増加し、高血圧となることがあります。さらに、アルドステロン・カテコールアミン・コルチゾールなど血圧上昇作用のあるホルモンが異常に増加する病気では高血圧となります。


05 高血圧による臓器障害


高血圧による臓器障害は、いずれも高血圧により血管壁が傷害され、動脈硬化が進行することが原因です。脳出血・眼底出血・解離性大動脈瘤では、血管が脆くなり壁の一部が何らかの誘因で瞬時に破綻することにより生じます。 これに対し、脳梗塞・心筋梗塞・腎不全などでは、動脈硬化が徐々に進行し血管内が細くなって、充分な血液が行きわたらなくなることが原因です。症状が出現するまで気づかれずに進行していき、気づいた時には手遅れということもありえます。


06 高血圧の治療

  1. 生活習慣の改善
    (収縮期血圧10mmHg、拡張期血圧7mmHg前後の血圧低下が得られることが多い)
    1. 体重制限
      理想体重を10%以上上回っている人では減量により血圧が下がることが多い
    2. アルコールの摂取制限
      ビール大瓶1本以上のアルコールを7日間連続摂取で血圧の上昇が確認されており、これ以下に抑える
    3. 規則的な運動
      1日に30〜40分間歩くことにより血圧低下が期待できる
    4. 食塩の摂取制限
    5. 禁煙
  2. 薬物治療

生活習慣の改善である程度の血圧低下が期待できます。食塩の過剰摂取は循環血液量の増加を招き、高血圧の原因になります。食塩摂取は少なくとも10g/日に以下(なるべく7g以下)に抑える必要があります。また、喫煙は動脈硬化を促進し、抹消血管抵抗の増大から高血圧の原因になります。
高血圧の治療薬には種々のものがあり、その作用機序から、利尿薬・Ca拮抗薬・ACE阻害薬・ARB・βブロッカーなどに分類されています。それぞれ降圧の程度・可能性のある副作用についても違いがあり、個々人に適した薬剤を選択して用いるのが最良の方法です。


07 運動時の血流分布




安静時・軽い運動時・激しい運動時の心拍出量はそれぞれ1分間に5,800ml・9500ml・17500mlになります。グラフを見ればお分かりのように。これは主に激しく筋肉を動かすために必要な血液が著明に増大するためです。これだけ多くの血液を全身に駆け巡らせるためには心拍数を上げ、心ポンプ機能を増大させなければなりません。この心拍数の増加が血圧の上昇を招きます。ですから運動中は確実に血圧が高くなるのです。


08 運動様式による循環機能の変化


 動的運動静的運動 
心拍出量++++
心拍数++
1回拍出量++
末梢抵抗−−−−+++
収縮期血圧+++++++
拡張期血圧0 or +++++


動的運動とはジョギングやウォーキングなど、持続的で軽度の筋肉運動のことです。静的運動とは、急激に筋肉の最大限の力を発揮する運動で、ウェイトリフティングや格闘技が代表的です。すべてのスポーツが動的運動と静的運動に完全に分類できるわけではありません。サッカー・バレーボールなどは、動的運動が主体で、時々静的運動が加わることになります。
動的運動と静的運動に分類して心拍数や血圧の変動をみてみると、両者にかなりの違いがあることが分かります。動的運動では心拍出量・心拍数・1回(心)拍出量の増加を認めますが、これは全身の筋肉に大量の血液が供給されるためです。しかし抹消(血管)抵抗の増加はほとんど認めず、結果として収縮期血圧は上昇しますが、拡張期血圧はさほど上昇しません。
これに対し、静的運動では抹消(血管)抵抗が著明に増大し(ウェイトリフティングで力をこめた時に体の表面の血管が浮き上がるのはこのためです)、収縮期・拡張期ともに血圧が上昇します。以上の理由から両タイプの運動ともに運動中の血圧は上昇しますが、高血圧の人の場合は、動的運動の方が血圧上昇の度合いが少なく安全ということになります。


09 運動による血圧の変化

  1. 運動中
    交感神経活動が活発となり血圧は上昇する。
  2. 運動直後(個人的見解)
    発汗やその他の影響により循環血液量が低下。また、交感神経活動が低下して副交感神経活動優位となり、血圧は低下する。
  3. 慢性的効果
    交感神経に作用するカテコールアミンが減少し、血圧は低下する。

  1. 運動中は交感神経活動が活発になり、心拍出量の増加から血圧が上昇します。
  2. 運動直後、まだ心拍数が速い時期では交感神経活動が活発で血圧が高い状態が続いていますが、脈拍数の低下とともに血圧も低下してきます。これは、発汗による体液量(循環血液量)低下に伴って心拍出量が低下してくるからです。
  3. 運動により交感神経活動が刺激され続けると、交感神経に作用するホルモンであるカテコールアミンが効果的に消費されていきます。このため、運動後しばらくの間は副交感神経の働きが優位となり血圧は低い状態になります。しかし、このような効果は2〜3日しか持続しません。


10 体力年代別の各種運動強度に対する脈拍数


%(VO2max)1008060 4020
 最強度強度 中等度軽度
20歳代18616113611085
30歳代17915513110884
40歳代17215012710582
50歳代16514412310281
60歳代1581381199980
運動強度非常にきついもうダメかなりきついジョギングの程度少し運動になる程度楽に感じる


運動の強度は、%VO2maxで表されます。
可能な運動量(運動能力)には個人差が大きいため、運動強度はその人個人で可能な最大強度の運動で消費される酸素量(酸素摂取量)を100として%で表示します。酸素摂取量の計測は難しいため、一般的には脈拍数で運動強度の度合いとします。 表はそれを示したものですが、心臓に問題がない限り、また不整脈がない限り、良く一致します。
人間の心臓の拍動数にも限界があり、20歳代で190以下くらいで年齢とともに低下します。このため年齢とともに指標となる脈拍数も全体的に低下してきます。


11 高血圧における運動療法


  1. 適応
    1. 薬物療法開始前でステージ1以下の血圧
      収縮期血圧159mmHg以下、拡張期血圧99mmHg以下
    2. 薬物療法で上記レベル以下に血圧が下降心臓・腎臓・脳に障害がないことが原則
  2. 運動強度および回数
    1. VO2max40〜60%、運動時間は30〜60分、1週間の頻度は3回程度。
      ウェートリフティングや格闘技は血圧が上昇するため,避ける。
    2. 継続することが大切
  1. 運動中は血圧が上昇するため、普段の安静時血圧が高い人では危険が伴います。高血圧の人の場合は収縮期血圧が159以下かつ拡張期血圧が99以下になるように内服薬で調整する必要があります。また、重要臓器に傷害があると運動により悪影響が出ることがあります。
  2. 運動強度は%VO2maxが40〜60%程度の動的運動が最適です。高血圧の場合はジョギングやウォーキングを30〜60分程度として、週に2〜3回程度が適切です。ウェイトリフティングや格闘技などの静的運動は血圧が上昇しやすいため避けた方が無難です。週に2〜3回のトレーニング時間が取れない場合でも、運動によりある程度の血圧降下が期待できるため、定期的な運動習慣を身につけましょう。
















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