第01回 『 脳梗塞 』平成16年05月26日(土)


梗塞は、虚血(細胞が生きていくために必要な血液が足りない状態)が原因で生じます。脳梗塞や心筋梗塞が有名ですが、肺・腎臓・肝臓などの臓器でも生じます。
臓器によっては梗塞によって死滅した細胞が再生されることもありますが(肝臓など)、脳では梗塞になって死滅した細胞が再生することはありません。


01 脳梗塞とは?

頭蓋内血管あるいはその根元にあたる頚動脈や椎骨動脈が、動脈硬化のために閉塞(完全に詰まること)、または狭窄(血管内が細くなること)し、脳細胞を栄養する血液量が不足し、細胞死に至ること。 障害される脳の範囲により、出現する症状や重症度に違いがあり、広範囲の場合は死に至ることもある。

頭蓋内(脳内)血管は、大脳前半部に血液を供給する左右の内頚動脈系と大脳後半部・小脳・脳幹に血液を供給する椎骨動脈系に分かれます。
顎の部分で総頚動脈が内・外の頚動脈に分かれ、内頚動脈が頭蓋骨を貫いて脳に達します。その後、前大脳動脈・中大脳動脈に枝分かれして脳に分布します。
椎骨動脈は、頚椎に沿って上行して頭蓋骨底部に達し、左右が合して一本の脳底動脈になって脳幹・小脳の血管を枝分かれした後、最終的には左右の後大脳動脈になります。
脳梗塞では、血管の閉塞がどの部位で起きるかにより、症状や重症度が違ってきます。一般的に、閉塞する血管が太いほど重症となる傾向があります。
たとえば、中大脳動脈は大脳の約2/3に血液を供給しており、これが根元に近い太いところで閉塞すると、死亡率が高く、生存しても重度の障害が残ることがほとんどです。
また脳底動脈が閉塞すると脳幹が障害され、意識障害・四肢麻痺が生じ、極めて死亡率の高い状態となります。


02 脳梗塞の病型

1.アテローム血栓性脳梗塞
頭蓋外あるいは頭蓋内の主幹動脈(太い血管)に動脈硬化が生じ、血管壁に血栓(血の固まり)が形成され、それが血管を閉塞することにより生じる脳梗塞。

動脈硬化は、動脈壁に脂質や血栓が堆積して壁が厚くなる状態で、進行すると血液が通過する血管内腔が狭くなってきます。これが一定レベル以上となると、脳が必要とする血液が不足し、脳梗塞になります


2.ラクナ梗塞
脳内の主幹動脈から枝分かれした細い穿通枝動脈が閉塞することにより生じる小梗塞。最も多いタイプの脳梗塞で、無症状のことが多い。血管閉塞の原因は、加齢・高血圧・糖尿病を背景にした動脈硬化である。

ラクナ梗塞は、脳の深いところにできる小さな梗塞で、大きさは1センチ以下のことがほとんどです。
梗塞ができる部位にもよりますが、多くは症状のない無症候性脳梗塞です。脳内の太い血管から脳を貫く細い動脈(通常1ミリ以下)が、動脈硬化が原因で閉塞して生じるものです。
このタイプの動脈硬化に最も悪影響を与えるのは、年齢・高血圧・糖尿病・喫煙・高コレステロール血症で、動脈硬化に与える影響の強さもこの順になっています。
したがって、年齢とともにラクナ梗塞の頻度は高くなり、80歳代ではほぼ100%、70歳代で50%、60歳代で20〜30%に認められるようになります。


3.心原性塞栓症
心臓弁膜症や不整脈などが原因で、心臓内に血栓(血の固まり)ができ、それが血流に乗って脳内の血管を閉塞することにより生じる脳梗塞。急激に発症し、重症となることが多い。

心臓にある弁の動きに異常があると、弁そのものや心臓内に血栓ができやすくなります。 また不整脈があると、心臓の一部の動きが悪くなり、血栓が生じやすくなります。
この心臓内や弁にできた血栓が何らかの原因で剥がれ、血液の流れに乗って脳内の血管を閉塞させてしまうのが心原性塞栓症と言われるタイプの脳梗塞です(脳塞栓ともいいます)。
一般的に、脳内の太い血管(内頚動脈や中大脳動脈)が突然に閉塞するため、意識障害や重度の片麻痺などが急激に出現し、重症となります。


03 脳梗塞の治療

1.内科的治療
血管閉塞の原因となっている血栓を溶解(溶かす)目的で、薬剤の点滴を行ったり、脳神経細胞保護の目的で点滴を行う。 また、脳浮腫(脳の腫れ)を軽減するための薬剤を点滴する。また、状況によっては、直接閉塞した血管に薬剤を注入。

一旦、脳梗塞が起こってしまうと内科的治療が主体となります。発症後早期(3時間以内)であれば、血栓溶解剤(血栓を溶かす薬)を直接動脈内に注入、あるいは点滴することで、死滅しかけた脳細胞を救うことも可能です。
また、脳保護薬の投与もある程度の効果があるといわれています。
また、脳梗塞が生じると、周囲脳に浮腫を生じたり、血管内の血栓が広がる場合もあり、抗浮腫薬・抗凝固剤・抗血小板療法なども行われます。


2.脳梗塞の予防
血栓ができるのを防ぐ目的で、各種の内服薬を使用。また、高血圧や糖尿病があると、動脈硬化が進みやすく、これらの治療も重要。

脳内血管や頚部内頚動脈に狭窄性病変(血管の細くなった所)がある場合、脳梗塞を起こす危険性が高くなります。
このような場合、抗血小板剤や抗凝固剤を内服することで、血栓ができるのを防ぎ、脳梗塞を予防します。
また、高血圧・糖尿病・高コレステロール血症では、動脈硬化が進みやすく、これらの治療も重要です。無論、禁煙もすべきです。


04 MRI検査の役割

  1. 脳内の無症候性脳梗塞をチェック
    60歳以上になるとラクナがある可能性が高くなります。状況によっては、治療の必要があります。
  2. 脳内主要血管に閉塞や狭窄がないかをチェック
    脳内主要血管が狭窄してくると、血栓が形成され脳梗塞を起こす可能性が高く、治療が必要な状態です。

脳は意外に広いもので、小さなラクナが数箇所あっても無症状(無症候)のことが多いものです。
しかし、これが数十箇所となると、何らかの症状(麻痺やシビレなど)がほぼ必発となってきます。無症状の時期にラクナを見つけ、必要な予防策をとることで、症状の出現する脳梗塞の予防になると考えられています。
またラクナ以外の脳梗塞で比較的広範囲に脳梗塞があっても無症状のこともあります。
この場合も、原因を究明し、予防策をとることが重要です。MRIでは、脳内主要血管の描出が可能で、2〜3ミリ程度の太さの血管であれば、閉塞や狭窄の有無の判断がある程度可能です。
血管に閉塞や狭窄があると、脳梗塞を起こす危険性が高く、抗血小板剤や抗凝固剤内服による予防が重要です。

















PAGE TOP